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子守唄が聞こえる



 俺が今立っているこの世界のずっとずっと下には、地面という平らなものが存在するらしい。地面の上には水が流れ、山や川というような起伏に富んだ地形を形成している。大昔、人間をはじめとする動物たちはその地面の上で生活していた。人間はこの星を征服してしまうような勢いでその棲み家を広げていたという。さらに、その頃の植物というのは驚くほど脆いもので、刃物の類で簡単に切り倒すことができたらしい。植物は建物の材料や燃料として使用され、その伐採のされ過ぎが問題になっていたとか。信じられない話だ。本当のことなのかどうかは知らない。興味がない。
 そんな話を俺に教えてくれた人は先月死んだ。森に棲む得体の知れない野蛮人どもに襲われたのだ。
 この地球ではもう生きていくことはできない。かつての地球の覇者は人間だったかもしれないが、今の覇者は植物である。日光を求めて上へ上へと伸び続ける植物たちの勢いは他のどんな生物よりもたくましい。一週間前にはあそこで新しい木が生えたと思ったら、今日はその木を栄養源として全く別の木が生えてくる。古い木の幹を破って新しい木が生え、太陽を目指す。常にその繰り返しが行われている。人間も動物も、植物同士の熾烈な争いが繰り返される世界の隅で密やかに生きていくしかない。安全な場所はない。平らな木の幹を運よく見つけてそこに住居を構えたとしても、その木がいつまでそこにあるか保障はないのだ。眠っているうちに真下から新しい木が生えてくるかもしれない。
 その上に、野蛮人だ。彼らがどういう存在なのか俺は知らない。周りの人たちも多分知らないだろう。雲上都市が墜落して、初めて奴らに襲われたときはこの上ないほど恐ろしかった。雲上都市というのは大掛かりな飛行船のようなものだ。俺が生まれるずっと前から空を飛んでいて、どういう技術で飛んでいるのかは誰も知らない。地球で暮らすことのできなくなった人類の最後の家であり、つい一か月ほど前まで俺たちが生活していた場所だ。生まれてからずっと当たり前のようにあった世界がまるごと墜落するのはすごい事態だと思うのだが、それよりも野蛮人どもに襲われたことの方が俺たちには大事だった。そいつらを野蛮人呼ぶ理由は、シルエットだけを見たら人間と同じ形をしていたからだ。だが肌や髪の色は緑色をしていて、言葉も通じない。縦横無尽に生える木の幹や枝をまるで虫みたいに飛び移り、逃げ惑う俺たちを一人一人殺していった。墜落の衝撃で多くの人が既に死んでいたから、いったいどれだけの人が殺されたのかは分からないが、とにかくその襲撃の後に生き残ったのはたったの三十人だった。俺たちの都市の人口は三万人だった。千分の一の確立で生き残るとは、我ながらついているのかついていないのか。ついていたのかもしれない、と漏らしたのは俺たちをまとめている三十代ぐらいの若い兄ちゃんだった。地上の空気は雲上都市よりもはるかに多い酸素を含んでおり、ここの環境に慣れた生物ならばともかく俺たちにとっては猛毒なのだ。ここで生きていくには酸素ボンベを背負ってマスクをつけなければならない。そして廃墟と化した都市から回収できたボンベとマスクはせいぜい五十ほどしかなかった。野蛮人の襲撃を受けなければ、それらをめぐって醜い争いが起きていたことだろう。皮肉な話だった。
「おい、そっちどうだ」
 遠くからくぐもった声が聞こえた。俺は手を止めて振り返り、声をかけてきた男を見返す。二十代後半の男で、名は確かヒガシと言ったと思う。
「全然ダメだよ。下りられそうな隙間はあるけど、落ちたら真っ逆さま」
「他に下りられそうなところは?」
「穴を広げたら探せるかと思ったんだけど……歯が立たない」
 俺は手に持っていたナイフで、ヒガシに見えるように目の前の木の幹をがつりと叩いた。俺としては抉るぐらいのつもりで振り下ろしたのだが、木の表面には傷一つついていなかった。ヒガシがマスクの下で驚いた表情を作る。
「へえ、こりゃすげえな。他の道を探すしかないかね」
 ヒガシと一緒にしゃがみこみ、絡み合って壁のようになっている木の幹の隙間から向こう側を覗き込む。そちらは広い空洞になっており、木々の間から漏れる日光が光のシャワーのように降り注いでいる。ちょうど俺の真下になるところに、大木に突き刺さった雲上都市の姿があった。
「あそこまで行けたら、武器とか食料とかいろいろ手に入るかもしれないってのになー」
「生きてる人はもういないのかな」
「いないんじゃないか? 俺らの都市もかなりボロボロだけど、あそこまで酷くはないぜ。俺らよりずっと前に墜ちてきたんだろうな。他にも探したらいっぱいあるんだろうな、こういう都市の残骸ってさ」
 ヒガシはそう言うと立ち上がり、木の幹を伝って行ってしまった。彼と俺がリーダーから与えられた使命はあの都市への行き方を探すことだ。
 俺は四つん這いになって隙間の中に顔を突っ込み、どこか下りられそうなところはないかと未練がましく探す。正直に言って、この気味の悪い植物が生い茂った世界を歩き回りたくはないのだ。そんなことを言っても、植物のない空間なんてもはやこの地上には存在しないのだけれども。後から後から生えてくる植物は、せっかく見つけた歩けそうな道も隠れられそうな場所もあっさりと塗り替えて消してしまう。何度も通った場所でも、いつの間にか知らない場所に変わっている。こんな世界はいやだ。戻れるのなら雲上都市で何も知らずに笑っていた頃に戻りたい。戻れないけれども。
「あっ」
 一瞬のできごとだった。俺はうっかりナイフを握っていた手を緩めてしまった。手から落ちたナイフは堅い木の幹の上でカランと綺麗な音を立て跳ね返った。穴の中に落ちていこうとするナイフを受け止めようと俺が手を伸ばした。ナイフといえども今は貴重品だ。おろそかにはできない。そして体を支えていたもう片方の手がずるりと滑って、背筋が凍った。
 気が付いたら俺は空中に投げ出されていた。
 あ、俺、死ぬわ。意外と冷静にそう思った。
 だが次の瞬間、俺は顔面から真下にあった木の枝の中に突っ込んでいった。反射的に両手で顔を覆うが、体中を鋭い枝に引っ掻かれながら落下していく。俺の体にかなりの負担をかけながらも、枝がばきんぼきんとすごい音を立てながら折れていった。痛くて怖くて死にそうだったが、幹はあんなに堅かったのに枝なら割とあっさり折れるんだな、なんて悠長なことも同時に考えていた。
「ぐうっ」
 落下は唐突に終わった。堅い何かに背中から叩き付けられ、衝撃のあまり頭の中が真っ白になり、そのまま気を失った。

 目を覚ますと体中が痛かった。いたるところから血は流れているし、叩き付けた背中は動かすとかなり鈍い痛みを発した。それも当たり前だ。背中には酸素ボンベを背負っていたのだから。痛みに耐えて体を起こし、酸素ボンベとマスクの状態を確認する。マスクは壊れていないが、酸素ボンベはへこんで変形していた。落下の衝撃のせいだろうか。曲がった部分にほんの少しだけだが穴が空いてしまっている。じきに使い物にならなくなるだろう。
 俺はその酸素ボンベを見つめながら、その場にしばらくじっとしていた。体が痛くて動きたくなかったし、下手に動いて酸素を消費しても死が近くなるだけだ。
 だが、こんなところに滑り落ちた俺を、誰が助けにくるだろうか。
 俺が落下して叩き付けられたのは横向きに生えた木の幹ではなかった。俺の目の前に広がる風景は、懐かしの雲上都市だ。俺はコンクリートの上で気を失っていたのだった。
 いざ目の前にしてみると、この雲上都市は思っていたよりも朽ち果てていた。人の住んでいる気配は全くない。あちこちの建物を突き破って木が生えており、もうじき木に埋もれて消えてしまいそうだ。木のせいで視界が遮られて遠くまでは見えないが、あるのは植物と、元が何だったのかも分からない瓦礫ばかりだ。そういえば死体もない。俺たちの都市は今、散らばる死体が腐敗し始めていてとんでもない状態だが、ここには人骨さえ見当たらない。ここが墜落したのはいつ頃なのだろうか。彼らは何かしらの手段をもって生き残ったのだろうか。
 まさかあの野蛮人に進化したんじゃないだろうな、という自分の思考がおかしくて、少し笑った。この世界で生き残るのは、あんな野蛮人にでもならないと無理だろう。俺はきっとここで脱落する。残りの二十九人も死んでいく。だってこんなところで妊娠して、出産して、子育てをするなんて不可能だ。できたとしたらそれはもう人間じゃない。
 ふと、音が聞こえたような気がした。それも風の音や木の葉がこすれるような音ではない。もっと機械的で人工的な音だ。俺は立ち上がった。
 音のする方向はよく分からなかったが、適当に歩き出した。音が小さくなったらまた違う方向に行けばいい。聞こえなくなったら戻ればいい。とにかく音の出どころを探してみたかった。ついさっきまでは無駄な行動を控えようとしていたのに、どうしたことだろう。機械の音がするということは、人がいるかもしれないということで、人がいるならば助けてくれるかもしれない。そう自分に言い聞かせて俺は進んだ。生きている人なんているはずがない、ということは忘れた。
 近付いていくうちに、音はなにかのメロディであることに気が付いた。どこかで聞いたことがあるような気がしたが、どうせ思い出せないので考えるのをやめた。音楽は昔から得意ではない。得意だったあいつは一か月前に死んだ。都市の機能が完全に死んでいたために火葬してやることができなくて、かといって埋めてやる場所もなくて、結局あいつの部屋のベッドに寝かせてある。あいつだったら何のメロディか思い出しただろう。聞いたことはあるのだ。懐かしいような気がする。
 そのうち、音の発生源に近付けなくなった。どちらの方向へ行っても遠ざかって行ってしまうのだ。俺はしばらく同じところをうろうろしたが、傷の痛みに耐えきれなくなってきて、倒れた柱の上に腰かけてため息をついた。メロディは機械音なのだが、誰かが歌っているようにも聞こえる。ただの音ではなく、歌詞らしいものがついているように聞こえるのだ。それをぼんやりと聞いているうちに、あいつの好きな歌と似ているような気がしてきた。どんな歌詞だっただろうか。
「ル……ヴォン……モウディ……」
『どなたですか?』
 飛び上がるほど驚いた。機械音声だったが、どこからか声をかけられたのだ。俺は慌てて辺りを見回したが、音が出そうな機械は見当たらない。そもそも音の発生源を探していたのだから、そういうものがあったらとっくに気付いているはずだ。
『私は、あなたの下にいます』
「はあ?」
 腰を下ろしていた柱をまじまじと見るが、スピーカーがついているようには見えない。柱から下りて試しに転がしてみると、意外と簡単に転がり、柱の下に大きな亀裂が現れた。下は薄暗くてよく見えないが、部屋があるらしい。それほど広い部屋ではないようだ。というか、かなり壊れて歪んでしまっているように見える。
「だれ、だ」
『アンドロイドです。ご存じありませんか』
「君が歌ってたのか」
『はい』
 部屋の中には瓦礫が大量にある。俺は亀裂の一番広い所からそろそろと足を伸ばし、少しずつ下りていくことにした。俺が黙ると、アンドロイドはまた歌いだした。柱をどけて近付いたことで、先程までよりはっきり聞こえるようになっている。思った通り、あいつの好きな歌だった。ただ歌詞は違うような気がする。全部覚えているわけではないから分からないが。
 部屋の床に足がつくまでは思っていたよりも長かった。薄暗くて視界が悪く、瓦礫を足場にしているせいで安定性もなく、体中の怪我をかばいながらなので無理もない。下りきったときには思わず床に寝転がってしまった。
『大丈夫ですか』
 アンドロイドの声はすぐそばから聞こえた。少しずつ暗さに慣れてきた目で探すと、若干だけ人の形をとどめている物体がすぐ近くにあった。俺の知っているアンドロイドとは、見た目は人間そのままであり、表皮一枚の下は機械でできているロボットのことだ。だが目の前にいるアンドロイドは人間の皮を失い、左腕と両足も失っていた。顔は右頬あたりが何かに抉られたようにごっそりなくなっている。
「まだ、動けるんだな」
 思った通りの感想が口をついて出てしまった。アンドロイドは無感動にはい、と答える。
「なんで、歌ってたんだ」
『他にできることはありません』
「そりゃ、そうだな……ここは、いつ墜落したんだ」
『M暦1527年です。墜落によって住人は全滅しました』
 俺は絶句した。今は1731年だから、ざっと二百年も昔のことだ。このアンドロイドはその時から今までずっとこうして一人でここにいたということか。
『あなたも歌っていました』
「え? ああ、さっきの……俺は歌えないよ」
『誰かに歌ってもらったのですね』
 俺は答えなかった。アンドロイドはそれを肯定と受け取ったらしい。
『私も歌ってもらいました。これはマザーの子守唄でした』
「マザー? 母親か?」
『マザーシップです』
 マザーシップ、というのは雲上都市のメインコンピュータのことだ。飛行船の操縦から都市のあらゆるエネルギーに至るまで全てを管理する人工知能である。雲上都市に住むアンドロイドはすべてマザーシップと同じく人工知能が搭載されており、常にマザーシップと同期をとって情報を共有している。
「ここのマザーシップはまだ生きてるのか?」
『いいえ。マザーは死にました。アンドロイドも恐らくもう残っていないでしょう』
 アンドロイドの顔がすっと斜め上を見上げた。誰かを思い出す人間の仕草をまねているのか、それともマザーシップが動いていた頃のことを本当に思い出しているのか。俺が黙っていると、アンドロイドは視線を落として切り出した。
『お願いがあります』
「……なんだよ。何もできないぞ」
『私を死なせてください』
 そう言い放ったアンドロイドの顔には表情がない。当たり前だ。表情を作るための筋肉を模したパーツは失われ、ただの機械の塊にしか見えないその顔に表情など浮かぶわけもない。だがもし表情を作れたとしてもきっと無表情だっただろう。死にたいと言われるのは予想の範囲内だ。なぜなら俺自身が既に死にたくなっているからだ。まだこの世界へ来て一か月しか経っていないというのに。
『もう千と二百の時を数えました。大切なものは全てここに眠っています。どうか私も一緒に眠らせてください』
「……いやだ」
『どうしてですか』
 俺は顔が歪むのを止められなかった。アンドロイドの気持ちはよく理解できる。そりゃ殺してほしいだろう。もう二度とこんなチャンスはないのだろう。俺がここで殺してやらなかったら、あとどれだけの年月を過ごすことになるか分からないのだから。殺してやれば心穏やかにあの世へ旅立てるだろう。アンドロイドにもあの世があるのかどうかは知らない。
「俺は、身勝手なんだ。置いていかれるのはもう嫌だ。自殺する勇気もない」
 アンドロイドは無言だったが、話を聞いてくれている雰囲気だった。俺は寝転んだまま遥か上に見える木漏れ日を、まるで星のようだと思いながらぽつぽつと言葉を零した。
「幼馴染が死んだんだ。うるさい奴で、泣き虫で、本当に手がかかった。神経の図太い奴で、ばばあになっても俺にがみがみ言うんだろうと思ってたら、あっさり死にやがった」
『好きだったんですね』
「……ロボットのくせに、恥ずかしいこと言う奴だな」
『いつかの主がそういうことばかりを言っていましたから』
 俺は破れた上着をまくり上げ、腰に差していた古い小型銃を取り出した。あいつの親が護身用にとあいつに持たせたものだ。結局意味はなかった。弾丸が込められているのを確認してアンドロイドの方へ向ける。
「殺してくれって言ったって、どこを撃てば死ねるんだよ」
『殺してくださるんですか?』
「いや。だって殺したら俺、一人になるだろ。どうせもうじき死ぬのに」
『そうですか。では、私が殺して差し上げましょうか』
「とんでもねーこと言うロボットだな、おい」
『アンドロイドです』
 アンドロイドの声は心なしか弾んでいた。俺が呆れていると、もう動けないのだと思っていた体がわずかに動き始めた。ギギギ、と嫌な金属音が鳴る。残っていた右腕が俺に向けて差し出され、握りこぶしがゆっくりと開いた。驚いたことに掌には表皮が少しだけ残っている。肌色の見かけだけは柔らかそうな掌の上に指輪が一つちょこんと乗っていた。
『どうかこの指輪を持って行ってください。私は死んだ後、あなた方と同じところに行ける保障がありません。死後にこの指輪の持ち主に会えたら返してあげてほしいのです』
「持ち主、って……」
『名前が内側に彫ってあります』
 アンドロイドの手から指輪を受け取り、内側を確認する。文字が違ったらどうしようと少し心配したが杞憂だった。俺はくすりと笑い、アンドロイドに小型銃を握らせる。
「使い方は分かるんだろうな」
『はい』
「弾は四発残ってる。やるんなら一発で苦しませずにやってくれよ」
『いいのですか?』
「殺してやるって言ったのはそっちだろ。俺を一発で殺せたら、そのあとで自分もその銃で死ねばいい。銃で死ねるんだよな?」
『はい』
 俺はアンドロイドのすぐ前に俺の頭が来るようにして横たわり目を閉じた。アンドロイドの腕がみしみしと不吉な音を立てながら動いているのが聞こえる。いいとは言ったが、今まさに自分が銃で撃たれて殺されるのだと思うとやっぱり、怖い。情けないかもしれないが仕方のないことだ。誰だって死にたくはない。こんな世界でなければよかった。もっと平和な世界に生まれたかった。
「あのさ」
 発した声は震えていた。
「やっぱり、殺す前に、もう一度だけ歌ってほしい」
 アンドロイドは答えなかった。俺の言葉が終わるか終らないかのうちに歌は始まっていた。
 改めて聞いていると、あいつの歌とアンドロイドの歌とでは歌詞が全く違っていた。あいつの歌は普通の言葉だったが、アンドロイドの歌は昔の言葉なのか言葉の意味が分からない。千年前の歌とかだったら、骨董好きな人間にはたまらないだろう。歌詞の意味は同じではなさそうだ。あいつの歌はいかにも童謡という感じで、子供が楽しく口ずさむような歌だった。この歌は同じメロディなのにどこか冷たく悲しい。アンドロイドは子守唄と言ったが、俺なら子供を寝かすのにこの歌は歌わないだろう。
 だが、歌を聞いているうちに、不思議と眠気が襲ってきた。俺は素直に眠りに落ちていこうとし、ふとアンドロイドに渡された指輪の事を思い出す。指輪の中に彫ってあった名前は、なんという偶然だろうか、俺と同じ名前だったのだ。運命なんて安っぽい言葉だが、俺は来るべくしてここへ来たのかもしれない。最期くらいそういう恥ずかしいことを考えたって、まあいいだろう。死後の世界があるのなら、あいつに笑われるかもしれない。それはそれで幸せだろう。
 俺は約束通り指輪を握りしめたまま、いつしか眠りに落ちていった。



Fin.


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